「飾り毛布」について
国労東神奈川電車区分会 吉田孝志
(元 国労青函地本 船舶支部 津軽丸分会)
毛布を、「花や動物」、「日本の伝統的な形」、「自然の風景や季節の形」など、様々な形に折って客室のベッドの上に飾る「飾り毛布」は、日本船固有の伝統のサービスです。長旅の乗船客の心を和ませ、船室に華やかさを添えるために、客室係はベッドメーキングを済ませたあと、毎回毛布を違う形に折ってベッドに置きました。
1908年に運航が開始された青函連絡船では、日本郵船から国有鉄道に移った船員により同様のサービスが営業当初から伝えられていました。また、1920年代から30年代にかけての客船全盛期には、外洋航路と国内航路の多くの船上で「飾り毛布」(船会社により「花毛布」と呼称)が盛んに折られていた記録が残っています。
私は、1978年に国鉄青函局に入社し、事務部乗組員として津軽丸などに乗船勤務しました。そこで初めて「飾り毛布」に出会い、先輩折り手による、腕、ひじ、手先の素早いさばきと仕上がる「オブジェ」に魅了され、この伝統に関心を抱きました。
日本人の美意識を活かした「折る」造形としても素晴らしい「飾り毛布」は船員間の口伝により継承されてきたため、ごく僅かな資料しか残されていません。この貴重な伝統技術を記録に残すと共に、これまでの図書でほとんど取り上げられることがなかった「事務部員」、「司厨部員」に光を当て、現在でも継承されている船会社などの折り手の紹介も網羅して、「飾り毛布」の研究者である明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部の上杉恵美准教授と共著で、2012年11月に「海文堂出版」から『日本船伝統のおもてなし
飾り毛布 花毛布』を出版しました。
「飾り毛布」は、日本船の客室サービスとして定着・普及してきましたが、戦災や長距離行路の廃止により衰退していきます。青函連絡船においては、1964年以降の新造船就航による輸送の高速化と業務の効率化により、ベテラン船員が腕を振るう場面がなくなり、特にベッドメーキングの外注化はそれを決定付けました。
社会全体に余裕があれば、少しの工夫で提供できるサービスですが、効率化という「大波」にも負けず、継承を続ける折り手は、「おもてなしのDNAは絶やさない」、「敬意と思いやりを表現したい」、「花毛布は司厨部員の誇り」と断言し、多くの業務を遂行しながら、その伝統を守っています。110年以上にわたり継承されてきたこの妙技、そして、その豊かで奥深い世界を知っていただけることを願っています。 |
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≪ 青函連絡船「飾り毛布」の代表的な作品 ≫ |
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松竹梅
Pine, Bamboo and Japanese Apricot Blossom |
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菊水
Chrysanthemum on the Stream |
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薔薇
Rose |
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水芭蕉
Skunk Cabbage |
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富士山
Mt. Fuji |
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大輪
Big Bloom |
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