国労東神奈川電車区分会に所属する吉田孝志さんがこの程、明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部の上杉恵美准教授との共著で、
「日本船伝統のおもてなし 飾り毛布 花毛布」(海文堂)という本を出版されました。
 出版にあたってお言葉と作例を頂いておりますので、簡潔ですが紹介させて頂きます。
    
   
飾り毛布を披露する吉田さん
(本の詳しい内容については、出版社のHPをご覧下さい。)
http://www.kaibundo.jp/syousai/ISBN978-4-303-63438-4.htm
   

「飾り毛布」について

国労東神奈川電車区分会 吉田孝志  
     (元 国労青函地本 船舶支部 津軽丸分会)


 毛布を、「花や動物」、「日本の伝統的な形」、「自然の風景や季節の形」など、様々な形に折って客室のベッドの上に飾る「飾り毛布」は、日本船固有の伝統のサービスです。長旅の乗船客の心を和ませ、船室に華やかさを添えるために、客室係はベッドメーキングを済ませたあと、毎回毛布を違う形に折ってベッドに置きました。

 1908年に運航が開始された青函連絡船では、日本郵船から国有鉄道に移った船員により同様のサービスが営業当初から伝えられていました。また、1920年代から30年代にかけての客船全盛期には、外洋航路と国内航路の多くの船上で「飾り毛布」(船会社により「花毛布」と呼称)が盛んに折られていた記録が残っています。

 私は、1978年に国鉄青函局に入社し、事務部乗組員として津軽丸などに乗船勤務しました。そこで初めて「飾り毛布」に出会い、先輩折り手による、腕、ひじ、手先の素早いさばきと仕上がる「オブジェ」に魅了され、この伝統に関心を抱きました。

 日本人の美意識を活かした「折る」造形としても素晴らしい「飾り毛布」は船員間の口伝により継承されてきたため、ごく僅かな資料しか残されていません。この貴重な伝統技術を記録に残すと共に、これまでの図書でほとんど取り上げられることがなかった「事務部員」、「司厨部員」に光を当て、現在でも継承されている船会社などの折り手の紹介も網羅して、「飾り毛布」の研究者である明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部の上杉恵美准教授と共著で、2012年11月に「海文堂出版」から『日本船伝統のおもてなし 飾り毛布 花毛布』を出版しました。

 「飾り毛布」は、日本船の客室サービスとして定着・普及してきましたが、戦災や長距離行路の廃止により衰退していきます。青函連絡船においては、1964年以降の新造船就航による輸送の高速化と業務の効率化により、ベテラン船員が腕を振るう場面がなくなり、特にベッドメーキングの外注化はそれを決定付けました。

 社会全体に余裕があれば、少しの工夫で提供できるサービスですが、効率化という「大波」にも負けず、継承を続ける折り手は、「おもてなしのDNAは絶やさない」、「敬意と思いやりを表現したい」、「花毛布は司厨部員の誇り」と断言し、多くの業務を遂行しながら、その伝統を守っています。110年以上にわたり継承されてきたこの妙技、そして、その豊かで奥深い世界を知っていただけることを願っています。

≪ 青函連絡船「飾り毛布」の代表的な作品 ≫
 
松竹梅
Pine, Bamboo and Japanese Apricot Blossom
  菊水
Chrysanthemum on the Stream
 
 
薔薇
Rose
  水芭蕉
Skunk Cabbage
 
 
富士山
Mt. Fuji
  大輪
Big Bloom

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